こんなときにも教育者

昨日,食料品を買っておいたので,今日は午前中の買い出しはなし。ぼくにできることは,研究と教育しかないので,せっかくの午前中は学生さんたちの教育のための資料を作ることに。ツィッターにつぶやいたものを以下にまとめてみました。字数制限のなかで書いたので,文体が不統一かもしれませんし,本や資料が研究室にあって,取りに行ける状況ではないので,うろ覚えの記憶で書いたところも多く,誤った記述もあるかもしれませんが,ご容赦ください。

というわけで,こんなときにも教育者シリーズのはじまり,はじまり。

こんなときにも教育者:シリーズNo.1 誰かと一緒
 クラスのみんなは被災した時,誰かと一緒にいたいと思いませんでしたか?シャクターは不安や恐怖が高まると,他の人と一緒にいることを選ぶ傾向が高いことを実験的に示しました。自分と似ている人と一緒にいたいという動機や欲求を(  )動機・欲求といいます。

こんなときにも教育者:シリーズNo.2 リーダーシップの効果性
 リーダーシップの効果性はその集団が置かれている状況や集団の特徴によって異なるとする考え方をリーダーシップの(   )理論または(  )モデルといいます。課題の複雑さ,目標への到達の道筋の明確さ,成員間関係などがリーダーシップの効果性に影響するのです。
 課題が単純な時は成員志向的なリーダーシップが有効なのですが,目標が不明確な時などには目標達成志向的なリーダーシップが有効となるのです。某首相の寝ぼけた感じのリーダーシップが受け入れがたいのは彼のリーダーシップが明らかに状況に適合していないからです。

こんなときにも教育者:シリーズNo.3 原因を推論する
 某都知事は,今回の震災を「天罰」と言いました。つまり「あなた(被災者)たちが悪いから,天罰がくだったのだ」という解釈をしていることになります。ある結果について,それを引き起こした要因や理由を推論し決めることを(   ),英語では(   )といいます。
 行為者自身の問題や特徴に原因があるとするのを内的(  ),行為者を取り巻く状況や環境など外的な要因に原因があるとするのを外的(  )といいます。例えば,失恋した時「自分が悪い」と思うのが内的,「振ったあいつがバカなのよ」と思うのが外的な(   )です。
 行為者は自らの行動の原因を比較的外的な要因に(  )しやすいのに対して,観察者は行為者の行動の原因を行為者自身の内的に(  )しやすいことがわかっています。この傾向を基本的(    ),英語では(   )といいます。
 例えば,待ち合わせに遅れた時,遅れた人は「仕事が忙しくて」と仕事の忙しさという外的な要因に原因があるとする傾向があり,ずっと待っていた彼女のほうは「貴方は時間にルーズなんだから,嫌い」と遅れた人の個人的性質に原因があるとみなしやすい傾向があるのです。
 さて「天罰」という某都知事の発言は,被災者(行為者)の被災行動の原因を明らかに被災者たちの内的特徴に(  )しています。「日頃の行いが悪いから」とか「モラルが低下していたから」罰がくだったのだという解釈です。全く当事者意識のない観察者としての発言です。
 被災の原因は明らかに地震津波であり,人間の内的な要因によるものではありません。人々の不安や恐怖を利用した悪徳霊感商法新興宗教などが積極的に活動しようとしているようです。今回の被災は,自分たちが悪かったからではありません。悪質な勧誘に注意しましょう。 

こんなときにも教育者:シリーズNo.4 欲求の階層説
 自分の体験を考えると,うまく当てはまらないところがあるのですが,有名なので,ひとつの考え方として紹介します。被災しているとき,クラスのみんなは,どんなことをしたいと思ったり,何が欲しいと思いましたか?それは時間とともに変化していますか?
 アメリカの心理学者マズローは,欲求や動機は階層的・段階的な構造をしているという考え方を示しました。欲求の階層説とか段階説と呼ばれています。マズローによると,最初の欲求は,生理的欲求で,生命を維持するための食事・睡眠・排泄などの欲求の段階です。 
 マズローの欲求階層説では,低次の欲求が解消されると,次の段階の欲求充足を求めるようになるという仮定をしています。生理的欲求が満たされると,次の段階は,安全の欲求の段階になります。安全や安定を求めようとする欲求が生じるというのが,この段階になります。予測可能性も求められます。
 被災しているクラスのみんなは,おそらく,この段階にある人が多いのではないかと思います。ただ,ぼくの体験では,生理的欲求と安全の欲求は,マズローのモデルのように厳密に区別されているようには思えないですよね。生理的欲求と安全の欲求は一緒になっている。時には安全の欲求が優先する。
 将来の見通しが立たないのが困るというのも予測可能性ですから,マズローの安全の欲求のひとつになります。原子力発電所の事故も,現状がどうなっているのかを知りたいのではなくて,これからどうなるのか知りたい,つまり予測可能性を高めたいということになりますよね。予測可能性は大切です。
 原子力発電所関係のスポークスマンにいらいらするのは,現状の説明(注水に全力で取り組んでいます)をしているだけで,これからどうなるか(注水がうまくいかないとどうなるか)といった予測可能性についての説明がほとんどないからなのですよね。それぞれが勝手に予測するから,大混乱する。
もちろん安全と健康が第一です。クラスのみんなはまずは安全を確保してください。工夫して生き延びていってください。マズローのモデルでは,次は所属と愛の欲求,続いて承認や尊重の欲求,最後が自己実現の欲求となります。早くみんなが自己実現の欲求に挑める段階になってほしいと思います。

こんなときにも教育者:シリーズNo.5 援助行動
 多くの人たちの善意が結集してきています。クラスのみなさんも,自分たちを助けようとしている多くの人々の行動を知ると,勇気づけられますよね。他者を助ける行動を援助行動といいます。英語では(  )です。援助行動の研究のきっかけは,キティ嬢殺害事件のようです。
 キティ嬢という呼び方はどうかとも思うのだけれども,ニューヨークで多くの目撃者がいるにもかかわらず,キティ嬢が暴漢に襲われ殺害されてしまった事件です。当時のマスコミは「都会人の冷淡さ」としてセンセーショナルに報道したみたい。たしかに不可解ですよね。
 その後,調べてみると,事件が断続的に起こったので目撃者のほとんどが,何が起こっているか状況を把握していなかったり,「夫婦けんか」や「酔っ払いが騒いでいるのだと思った」そうです。つまり「援助の必要性を認知」していなかったみたい。これでは援助行動は生まれませんよね。
 ただし,今回の震災では援助の必要性を認知していない人はほとんどいないと思いますよね。では,どうして援助行動をしない人がいるのでしょうか?何故だと思う?・・・このように,社会心理学では,人はどうして援助しないのか,つまり援助行動の抑制因を解明することが当初の研究テーマでした。
 多くの実験によって,多くの要因が,援助行動の生起を抑制していることが明らかになりました。そのなかでも,「自分が助けなくても,他の誰かが助けてくれるだろう」と思ったり,「自分が援助していいかっこをすると,他の人からどう思われるか気になる」という心理の影響が大きいようです。
 前者を「責任の分散」,後者を「評価懸念」といいます。英語では(  )と(  )です。このように,多くの要因が援助行動を抑制しているのですが,現状はありがたいことにとてもたくさんの人たちが援助行動をしてくださっています。ではどのような要因が援助行動を促進しているのでしょうか?
 じつは,援助行動の促進因については,あまり多くのことがわかっていないのです(ぼくが,知らないだけなのかもしれませんが・・・汗)。社会心理学が始まってから,100年くらい。これまで,たくさんのことが明らかになってきているのですが,まだまだわからないことも多いのです。
 例えば,美人のほうが援助されやすいといった援助者側の特徴も援助行動に影響を与えていますし,援助の必要性やひっ迫性,援助の効果性についての認知などの援助事態の評価も援助行動に影響しています。また,援助者と被援助者の関係なども影響しています。
 このように,社会的行動は数多くの要因が複雑に影響しながら促進されたり,抑制されたりしているので,その全容を解明するのは,とても難しいのです。でも,挑戦しがいがあるとおもいませんか?社会心理学は,難しけれども,やりがいのある研究分野です。ぜひ,チャレンジしてください。
 もうひとつ,今回の事態でしみじみと感じているのが,援助される人たち,つまり被援助者の心理です。おそらく,これについての社会心理学的な研究はあまりないのではないかと思います。クラスのみなさんは,ぜひ,今の思いや感じ方などを記録しておいてください。ただし,安全を優先してね。

こんなときにも教育者:シリーズNo.6 創造性
 クラスのみなさんも,いろいろ工夫して生き延びようとしていると思います。ぼくのゼミ生のなかにも,断水でお水がでなかったので,ペットボトルのほうじ茶でお米を炊いたという3年生がいました。香ばしいご飯になったそうです。新聞紙もさまざまな利用が可能ですよね。
 ギルフォードという心理学者は,その品物本来の使用法以外の使用法について,できるだけ独創的な解を,できるだけたくさん生み出すように求めるテストを考案し,これを創造性の指標としました。例えば,針金のハンガーは,トイレットペーパーホールダーや,孫の手や,ヌンチャクにできます。
 逆に,特定の品物について,その品物本来の働きだけにこだわってしまって,他の働きの可能性について思いつかないことを(  )といいます。マッチ箱はマッチを入れるだけの働きだけでなく,ローソクを立てるための台としても機能するはずですよね。
 新聞紙も,ラップも,バスタオルも,工夫すれば,たくさんの働きをすることが可能になります。ひとりだけでは,アイディアに限界があっても,みんなで知恵を出し合えば,多くの優れたアイディアが創発される可能性もあります。今こそ,個人的な創造性や,集団創造性が試されるときだと思います。

こんなときにも教育者:シリーズNo.7 夜と霧
 原子力発電所が危機的な状況にあるのですが,「こんなときにも教育者」シリーズの最後は,フランクルの実存分析についてです。フランクルは,ユダヤ人なので,ナチスによって強制収容所に収容されてしまったのですが,その体験を「夜と霧」という本のなかに示しています。
 フランクルは,強制収容所では,自分より屈強な身体をしている男性たちが,次々と亡くなってしまっていくことを不思議に思い,生き残っていった人たちの心理的な特徴について考察しています。クラスのみなさん,サバイバーの人たちに,どのような特徴があったと思いますか?
 ひとつは希望を持ち続けていること。フランクルは,強制収容所を出たら家族に逢うという強い希望を持っていたそうです。実際には,家族は収容直後に殺されていたので,この夢が実現することはなかったのですが,それを知らなかったフランクルは生きて家族に会う希望を持ち続けていました。
 そして,もう一つが,ユーモアを持ち続けていること。フランクル自身,ユーモアとウィットを愛する快活な人柄であったそうですが,絶望的な状況でも,明るく楽しく生きようとする姿勢は,エネギーをもたらしてくれるのかもしれませんね。
 研究室の本を取りに行けるような状況ではないので,覚えている範囲で書いている「こんなときにも教育者」シリーズは,不正確な記述もあるだろうと思います。ご容赦ください。さて,クラスのみんな,困難な状況に直面しているでしょうが,ぜひ,「希望とユーモア」を忘れないでいてくださいね。
 授業の開始が4月終わりになってしまいました。次に逢うときには,笑顔で逢いましょうね。

午後からは,ずっとつかっていなかった「こたつ」のほこりを払って,セッティング。これで,灯油を節約できます。ただ,こたつに入っていると,足先の「しもやけ」がかゆくなって困ります。むずむず,かゆかゆ。